「今、ここのリアル」を僕が実感できるきっかけになったのが、リズムの力だった。90年代になって世界的 にテクノやハウスなどダンスミュージックが盛り上がり、クラブや野外レイヴなどのイベントに行くようになったのだ。
 純粋快楽としての音。テクノやアンビエントミュージックのイベントに行くようになって感じたのはそういうことだった。僕は実は音楽には ずっと疎くて、20代の頃は適当に、流行っているポップスとかを聴いていた。ロップやポップスは物理的な「音」そのものを楽しむというよ り、歌詞の内容やメロディー、さらにはアーティストのキャラクターに憧れたりして楽しむ、いわば「不純」な音楽に思えた。それに比べ、自 然界にない音を創造し、音そのものの快楽を追求する電子音楽はすごく新鮮だった。音そのものの美しさやテクスチャーに加え、身体をつき動 かすものとしてのリズム、純粋快楽としてのダンスに目覚めた。よけいなメッセージも物語もない、純粋快楽としての音楽にはまっていった。 
 学校の音楽の時間に習っていた和音だの、合唱だの、器楽だのは本当に同じ「音楽」だったのだろうか。体育 の時間にやらされ た花笠音頭 やマイムマイム(笑)はほんとうに同じ「ダンス」だったのだろうか。そして世に流れる大方のポップスはビジネスに過ぎないのではないだろ うか。
 リズムは、ヒトにとってすごく本源的な力を持っている。なぜなら「生命」というものが、呼吸や心拍など、さ まざまなリズムのシンフォニーであるからだ。そこから、快楽としてのダンスが生まれる。太 鼓の音は、心臓の鼓動に通じる。それにあわせて身体を揺らすことで、僕らはリアルな肉体を確認し、今ここに生きている歓びを実感できるの だ。 

 <本> 
◇三木成夫「胎児の世界」中公新書 
 解剖学者である三木さんが、胎児の成長過程に進化の歴史を重ね合わせ、「生命記憶」を遡行してい く。中に、生命リズムと宇宙リズムの話が触れられており、リズムというのが「生きる」ということの本質であることが実感できる。 名著!! 

◇ミッキー・ハート(グレイトフル・デッドのドラマ -)「ドラム・マジック~リズム宇宙への旅」(工作舎) 
 ドラミングと変性意識、シャーマニズムの関係についてのミッキーの探究の過程。面白い。

◇鶴見済「檻の中のダンス」太田出版 
 レイヴ体験を中心に、誰も今まで正面きって言わなかった、きわめて まっとうなことをばんばん書いていて痛快。これは今の日本に必要な本だ。そう、僕らはだまされていたんだ。