シャーマニズムは、新石器時代から現代にいたるまでおもに狩猟採集社会で受け継がれ てきた精神文化だ。シャーマンとよばれる人が病人を癒すなどの目的で変性意識状態(トランス)に入り、さまざまなスピリット(精霊)と交 流する。万物に精霊(スピリット)が宿るとするアニミズムの世界観を前提にしている。

 シャーマニズムというとすぐに「神がかり」的なキワモノというイメージを持つかもしれない。しかし シャーマニズム(とアニミズム)は実はヒトにとってとても普遍的で深遠な精神文化なのだということがわかってきている。
 子供のころ、誰でも動物と語り合ったり、空の雲の形や夜の闇に何かを感じたりしていたはず。それが シャーマニズム/アニミズム的な感覚である。そうした感性はヒトに元々備わっているはずだし、すぐれた芸術家や詩人は(たとえば宮沢 賢治のように)「見えない世界」を感じ取れるシャーマン的資質を持っていたのだ。ただ、近代はそうした感覚を抑圧してきた。

 シャーマニズムには「脱魂型」と「憑依型」の2タイプがある。おもに狩猟採集生活をする(つまり自 然のサイクルの中で生きる)世界中の先住民の 間に広くみられるのが脱魂型で、シャーマンの魂が身体を抜け出て、天上界や地下世界な どを旅し、祖霊や自然界の精霊と出会ってメッセージを受け取るというもので、シャーマンの多くが男性である。これは、農耕文明やそれ を基盤にした西欧近代がこの数千年間で世界を覆いつくすまでの長期間にわたって、ヒトの社会を支える基本的な文化様態だったとかんが えられている。いっぽう「憑依」型は、「狐憑き」や「神がかり」「チャネリング」のように、向こうからやってくる霊がシャーマンに乗 り移るもので、農耕社会に多くみられ、女性シャーマンが多い。農耕が行われて社会が階層化するにつれ、社会の精神的支柱であった脱魂 型シャーマンが憑依型に変わり周縁的存在になっていったと考えられる。日本では青森のイタコや沖縄のユタがそうだ。

 もともとの狩猟採集社会ではだれもが精霊の世界にアクセスでき、そのうちでとくに秀でたものが共同 体の仲間のために働くシャーマンとなっていたのが、社会が階層化・複雑化するにつれ、その役割を祭司や聖職者や天皇が代表し独占する ようになり、シャーマニズムは抑圧された。すべて の宗教の根源にはシャーマニズムがあって、シャーマニズムが制度化・システム化 することによって宗教が発生したといえる。そ して、悩みごとなどの相談を受ける憑依型シャーマンが陰の存在として細々と残るようになったわけだ。

 直立するサルであるヒトは、「言葉」と「文化」を持ったために自分たちを特別視するようになった。 言葉と文化によってヒトは自然から独立した自分たちだけの快適な生活環境をつくることができ、その分だけ自然界の一員であることを忘 れてゆく。 野生動物は、いつも餌を探し敵の気配を感受しなければならないから、深い レベ ルで自然の生き物たちの世界とつながっている必要がある。でもヒ トは知恵を働かせ両手を使うことで人工的環境をつくり、そこに生きることができるから、自然界に背を向けることができてしまう。だからヒトの魂は、他の動物と違って自然界から離れてしまいがちなのだ。
 しかし、どこまで行ってもヒトは自然に養われているわけで、自然か らの乖離が行き過ぎると自らの首を締めることになる(現代の僕らがまさにそうだ)。シャーマニズムは、そんなヒトと自然界とのつ ながりを保ちつづけるための、深層の絆なのではないだろうか。現 生人類は何万年もの間、自然からの疎外を埋め合わせるべく、自分たちが自然界の一員であることを想起し実感する文化装置~シャーマニ ズム~を編み出し継承してきたのだろう。

 近年、アメリカなど先進国では先住民の精神世界に共感する人が増え、自然とのつながりや心身の癒しを求めて、ネ オシャーマニズムとよばれるシャーマニズム復興の動きも盛んになっている。レイヴカ ルチャーのある部分はあきらかにシャーマニズム的性格を持っているし、近年の「スピリチュアル」やニューエイジのブームも、シャーマ ニズムへの潜在的関心の表れともいえるだろう。

 われわれは、失われた深層の絆をとりもどせるのだろうか。
 

⇒ネオ・シャーマニズム
⇒縄文、アイヌ、日本のシャーマニズム

<リンク>
イー グ ル・トライブ(関西の濱田秀樹さんのページ。ワークショップもあり。)
マイケル・ハーナー(文化 人類学者、元UCBerkeley教授)のシャーマニズム研究財団(英語)
Shamanism(英 語)

<本>
マイケル・ハーナー「シャーマンの道」(平河出版社)
ロジャー・ウォルシュ「シャーマニズムの精神人類学」春秋社
P.ヴィテブスキー「シャーマンの世界」創元社

真木悠介「気流の鳴る音」筑摩書房


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